『幼学指南鈔』は完本が伝存せず、もと一具の粘葉装本二十三帖が唯一の伝本で、その編者、成立事情等を明らかにしないが、もと三十巻と推定され、諸種の項目を天部・歳時部等に分類し、『礼記』『文選』『史記』等の中国古典によって説明した類書である。
この陽明文庫所蔵の二帖は、ともに粘葉装冊子本で、料紙は斐紙の薄墨紙に雲母を引き、天複罫、地単罫の押界を施している。本文は半葉七行、一行一五字前後に両面書に書写され、注は双行で、朱・墨の加筆訂正や、襲書、擦消訂正がある。文中に引用された書目はすべて中国の撰述書で、なかには佚書となっているものもあって貴重である。
二帖のうち、巻第十五は表紙は欠失しているが、もと扉紙である本紙第一丁の表に紫地の原表紙があった痕跡が認められ、八双の竹も一部分存している。内題はなく、第二丁表に「巻第十五」と巻次を表記し、ついで「文部」と部名を掲げて項目を、経伝、史伝、文字、講論、文章、筆、紙、硯、墨と記している。第一丁表の左上には「『【(朱)】十五』一交了」と校合記があり、帖末に「覺瑜」と墨書があり、これは伝領者を示すと思われ、覚瑜は仁和寺真光院覚瑜法印かと考えられる。
また巻次未詳の一帖は、首尾を欠し「直鍼」の項の記事より存するが、第三丁表に「章服部」とあって、その冠の項から弁、巾冒、夘、緩の項および笏の項の途中までを存している。『幼学指南鈔』三十巻のうちの現存する巻次の配列や『太平御覧』などの全体の部の配列からみて、この巻次未詳の帖は巻第二十に接続するものと考えられる。
両帖とも書写の奥書はないが、書風よりみて平安時代後期の筆になるものと認められ、他に伝本の知られぬ稀覯の類書の古写本として貴重な遺品である。なお本帖の僚巻としては、台湾の故宮博物院に一一帖、大東急記念文庫に六帖(重要文化財)などが知られている。