中世の社寺を中心に多く用いられた、朱漆塗りを主体とするいわゆる根来塗りの遺例である。こうした朱漆器には、折敷、高杯、瓶子などのような和様と、輪花形や華足といった装飾を伴う机、脚付盆のような、元・明代の器物類の影響を受けた唐様とがあるが、本件は後者の一例で、力強い曲面で構成された大型輪花盆の代表的優品として喧伝されている。
銘文により作期の下限(享徳四年)が明らかであり、また文中に「天目盆」とあることから、こうした器物を天目盆と称していたことが判明する。この種の盆は、『慕帰絵』巻第五や『福富草紙』などの絵巻物に描かれているが、そこでは天目を載せた天目台が置き並べられており、本件も同様の用途に用いられたと考えられる。
作行の優れた基準作であるとともに、名称や用途のわかる喫茶の歴史資料としても貴重である。なお同形同銘の盆が、奈良・西大寺に所蔵されており、両者がもと二点一具をなしていたことが明らかである。