見込みに菊文、側面には菱文と8弁の花文を切っている。側面には赤地には細かな魚子(ななこ)を刻んでいる。側面下部には長円形を切って連ねている。被せガラスとは、無色の素地に別の色素地を被せる技法。本器の場合、銅で紅色に発色する素地を無色素地に巻き取り、成形して、徐冷(じょれい)後に鉄棒や木の棒で切り込んでいる。日本製のカットグラスは文化・文政頃から大坂、江戸で始まった。この江戸後期から明治前期頃までの主として高鉛ガラスを切る日本製切子は、欧米のような車状工具の回転研磨によってではなく、水晶や玉を琢磨(たくま)するのに似た棒状工具を用いる往復研磨だった。大変な熟練と根気と時間を要する。本器の比重値は3.59と多くの鉛を含むガラスであり、薩摩切子の平均比重値3.5プラス・マイナス0.1の内にある。様式的には、東京国立博物館所蔵のもと薩摩切子の工匠であった宮垣秀次郎作の銅紅の鉢を想起させ、また意匠も薩摩製の基準作例より近代的な印象を与える。明治前期に東京に移動した薩摩切子の工匠の仕事ではないだろうか。
【びいどろ・ぎやまん・ガラス】