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板橋風景
Landscape at Itabashi
1919年
油彩・麻布 50.5×60.5㎝
中川の画家としての形成過程を見る時、岸田劉生の存在を忘れてはならないであろう。なぜなら中川の独学で始めた作品を最初に認めたのは劉生であったし、また彼との出会いからその後にかけては、その強烈な個性と独自の画風に牽引されたグループ草土社の同人だったからである。初期の中川の作品には、神秘性をおびた宗教的感情と『白樺』的な人道主義から発して、自然の一部である草や土に無限の愛情を示すように克明な描写をする劉生の画風の影響が見られるが、それは中川ばかりでなく同人たちの共通の特色であった。しかし「草土社は十年続いた。劉生を批判なしで見られなかったから私は苦しんだ。劉生にただついて行けたら何の苦労もなかった。私は暗い格子のはまった道場にいたような気がする」(「遠くの顔」)と中川が述懐するように、自身のうちでは劉生の感化と同時に自己を見失わないためにその感化から逃れようとする苦悩もあったようだ。この作品はまさにそうした時期のもので、主題は草土社流に巣鴨の自宅からほど近い板橋の田園が描かれている。ただしここでは鉄橋、空、川面、そして冬枯れの草の鮮やかな色彩対比とこまやかながらのびのびとした筆致によって、気負いのないさわやかな情感が表現され、自然に対する自己の感情を克明な写実によって凝結させた劉生とは異なった、独自の道を歩もうとしていることがうかがわれる。