32
転
Ten(Turn)
1961年
油彩・合板
183.5×183.5cm
1961年個展(東京、南画廊)
1950年代の中ごろから山口長男の作品は、黒の地に対してその上に描かれるかたちの一色のみに限定されてくる。すなわち、一つは黒の地に対して黄色もしくは黄土色のみ、他は赤茶色のみ(厳密にいえば、この場合黒に見える地色はプルシャン・ブルー)となり、この限定された色の使い方は、その後最後まで変わらなかった。そして黒の地の上のかたちは、50年代の末から次第にその面積を増しはじめた。こうした変化が明瞭になった段階の一作例が、この《転》である。
作者は、この絵ではなにか大地に根を張ったような広がりと厚みをもったものを表わそうとした、という意昧のことを語り、黄土色をかたちとしたのだが、「色の性質上内質的のふくみを持つようには働かないので、形そのものに動きを与えなければならなく」なり、「添削に添削を重ねた末に、安定とも浮游ともつかない動きがやや感じられるようになった」と述べている。作者のいう添削の痕跡の一部を画面上に見ることができるが、それ以上に注目すべきは黄土色のかたちはたんなる色面ではないことである。その厚く塗られた絵具の面に縦と横の鋭い直線が数本刻み込まれていて、これがちょうど三つの矩形を重ね合わせたような厚みを生み、また、色を塗り重ねていくペインティング・ナイフの痕は触覚的な絵肌を作って、刻みの線とともにこのかたちに彫刻的な実体感をもたらしている。そして、このかたちには、作者のいうとおり、右下にゆっくり回転していくような動きが感じられる。