和漢朗詠集は、平安時代に貴族の間で朗詠に適した漢詩文の秀句と和歌を題ごとにまとめた詩歌集である。撰者とされる藤原公任(九六六~一〇四一)は当代きっての文化人である。
本巻は、上下二巻からなる完本であり、和漢朗詠集の最古の遺例のひとつとである。各料紙には、右下と左上の対角の位置に藍の雲形を漉きかけた雲紙が用いられている。雲紙の完品の遺品としては現存最古であり、雲紙を対角に配した例は他に知られていない。この特徴的な料紙から本巻は「雲紙本和漢朗詠集」と呼び慣わされている。
本文に使用される漢字・仮名は複数の書体を用いて変化をつけながら書写されており、筆者が視覚的な美を追究した様子をうかがうことができる。筆者に比定される源兼行(生没年不詳)は、平等院鳳凰堂扉の色紙形を揮毫するなど、十一世紀中頃を代表する能書である。
本巻は、平安時代後期を代表する能書が書写した和漢朗詠集の最古の写本の一つであるとともに、雲紙の遺品としても最古であり、我が国の国文学史、書道史上、きわめて貴重である。