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挿花
1932年
紙本彩色 軸
155.2×97.6cm
左下に落款・印章
1932 第19回院展
東京国立近代美術館蔵
Arranging Flowers
1932
color on paper, hanging scroll
155.2×97.6cm
signed and sealed lower left
The National Museum of Modern Art, Tokyo
あやとり遊びをする二人の少女を描いた《二少女》(1922年、東京国立博物館)以来、ひさびさに現実の女性を描いた作品である。第19回院展に出品された当時、折しも速水御舟《花の傍》(no.93)を出品していたこともあって、現代の女性像をとりあげた二作品は、院展における「現実主義」の新しい傾向として注目され、また両作品を比較した批評が多くみられた。そのなかのひとつでは、つぎのように評された。
「いま安田靫彦氏の『挿花』を見ても、いかにも脂粉の臭がなく、隣りの誰々さんでもあるように思へ、話して見たいやうな如実の親しみが湧いてくる、まこと彼の明鏡のごとき認識により、真に日本女性の姿の一面が、ゆかしくも静かなすき透つた声で語られて居る。」(1)
ここで描かれた女性が、「隣りの誰々さん」というように無名性に言及しているが、それは、モデルの個性をできるだけ控えさせようとした結果なのではないだろうか。というのは、作者自身に質疑をかさね、制作記録に重点をおいた多田道太郎の作品解説によれば、女性の表現というよりも、「どこまでも、花と人とがかもしだす、清楚な環境、あわい東洋画的美の空間表現」(2)に主眼がおかれているためである。花を生ける女性と花だけを描き、両者の関係を背景に何も描かない空間をとることで、強調しようとしている。
(1)山口林治「靫彦氏の『挿花』と御舟氏の『花の傍』」、『塔影』8巻9号(1932年9月)、p.27
(2)多田道太郎「作品解説」、『安田靫彦画集』(1965年)、p.7