54
荒れた小さい菱形の沼
Deserted Small Rhombic Marsh
1962年
油彩・麻布 130.0×162.0㎝
最晩年の作品で、第12回モダンアート協会展出品作。山口の芸術は、抽象と具象の境界線上に位置しているが、1950、60年代に入って、抽象的方向に傾き始めるようになった。画面には山口のお気に入りの造形記号の一つである菱形が、左右に引っ張られ鋭角的な形になって、緊張感を秘めながら中空に浮遊している。画家自身によれば、それは四角を押しつぶした簡単な形で、特別な意味はないとされているが、故郷群馬県箕輪(みのわ)村(現箕郷(みさと)町)の田んぼや沼等との関連を連想させるものがあり、田園的な香りと抒情味をも合わせもっている。短く細い筆致で自由に置かれた朱、深緑、黄等と共鳴し合っているものの、全体的には薄く塗られたくすんだ青色が基調をなし、冷涼とした静けさが漂っている。それはさらに、中央のカンヴァス地が虚空を表すかのようにそのまま残され、菱形の輪郭線が白と黒で引き締められることによって、深みと精神性を加え、山口のとぎ澄まされた日本的感性の現れた表現となっている。