円形の小厨子で、厨子の表面には螺鈿と蒔絵で蓮台上の「阿【ア】」字を、背面には五輪塔、側面には頂部に雲、左右に散蓮華を表す。内部には大日如来報身真言を透彫りした金銅二重円光背を負うほぼ一木製の弥勒菩薩坐像を納め、扉内面には不動明王坐像と降三世明王立像を描いている。
阿弥陀の西方極楽浄土に対して、弥勒浄土すなわち兜率天往生を意図する思想を背景としたものであり、厨子表面に阿字が表されていることから、臨終に際してただ阿字を心の中に観想することにより安楽往生を遂げようとした意図の下に制作されたと考えられる。
精緻な檀像的彫技を見せ、理知的で眉目秀麗な相貌を有する弥勒像や、濃密な描法に加えて、截金線や金箔を多用する扉絵の様式は共に鎌倉時代中期を下らぬ頃の特色を示している。また厨子の加飾技法にしても、蓮台の形式や彫込み式の厚貝螺鈿法、あるいは蝶番や扉の掛金具の形式、光背の透彫り技術など、像・扉絵と同時代性を示している。
小形ながら優れた造形技術と感覚を示す特異な遺例として価値高い。
なおこの厨子は、高山寺の中興開山明恵上人(一一七三-一二三三)所用と伝えられる。