明治二五年(一八九二)に宮内省にて明治天皇の御物とすることを目的として、拵二口とともに製作されたうちの一つであり、約十一年の歳月をかけて完成した。当時は「明治の三大作」と呼ばれて報道され、世の耳目を集める国家事業であった。江戸時代の分類における書棚は、厨子棚、黒棚とともに、いわゆる三棚の一つに数えられる調度であるが、江戸時代末から近代にかけて、書棚は飾り棚としてさかんに作られた。本作も、新たな宮中での明治の棚として、伝統的な棚の要素を再構成して製作された意図がうかがわれる。また、意匠も細部にいたるまで、全て文様が繋がるように加飾している点も異例で、御物としての破格の造形を標榜していることが看取される。
さらに、宮内庁書陵部等に保管されている資料から、製作にかかる経緯を具に知ることができ、工芸史上、第一級の資料価値をもつ作例である。
漆工品としては大型の器物である棚の総体を、隙間なく加飾する密度の高い意匠としながら、蒔絵と螺鈿、金具に至る全体を破綻なく表現した、明治期の精密な工芸技術の粋といえる基準作といえよう。国家事業として製作が立案された経緯から、意匠、工芸技術における実力者が集められて製作にあたった、記念碑的な作品として重要である。