奥州藤原氏の本拠地であった平泉の、観自在王院大阿弥陀堂内に納置されていたと伝える鍛鉄製の樹木形である。樹幹に襞を刻み、シダを付けるなど自然の樹の姿を写実性豊かに、巧みに造形した高度な鍛造技術を示すもので、枝の先端部分が蕾状に造られているところから、当初は金・銀あるいは色裂製の花葉が具わつた華麗な花樹であったと考えられる。
その樹態を見ると、根元近くより分枝した枝がその上部で再び幹と交叉するという独特の曲線を有している。この形姿は、例えば国宝紙本墨画鳥獣人物戯画(高山寺)甲巻や、国宝彩絵檜扇(厳島神社)などに描かれた樹木表現に相似し、また幹に付けられた鰭状のシダは、国宝絹本著色十六羅漢像(東京国立博物館)の背景の樹木や、国宝本宮御料古神宝類(春日大社)中の蒔絵箏の崖に描かれたシダの形と同様であり、いずれも平安時代後期の作品に見られる特徴的な表現である。
またその用途については確定できないが、おそらく法会などに際して仏前を荘厳した供養具(宝樹)として用いられたかと類推される。
ともあれ樹態の成形、鍛造技術に優れ、かつ造樹の大形遺例として資料的にも貴重である。