今回、指定する資料は、平成11年度の第31次調査において発見された奈良時代の井戸の出土品である。井戸は、一辺2.5m、深さ3.9mの方形の掘形をもち、その内に板材4枚を井籠に組んで井戸枠一段とし、計15段分をとどめる。下段4段分では、材に枘穴を穿ち、太枘を入れて固定している。
井戸の底からは、鉄製紡錘車や土師器の墨書皿などが出土した。これらは割れた状態で出土しており、土器の破片は井戸枠内に限らず、掘形からも見つかっている。このことは井戸枠を設置後に土器などが埋没したのではなく、井戸の開鑿に伴って意識的に埋められた可能性を暗示する。井戸枠の構築に先だち、井戸のためのまつりが行われたことを物語る。佐波理鋺は、井戸底に置かれた石の下からほぼ完全な形で出土した。最も薄い部分で約1㎜、口縁端部を少し厚くし、胴部は丸く平底で、高台はない。法隆寺や正倉院に類例がある。
今回指定する佐波理鋺は、形状・成分ともに正倉院の佐波理鋺に類似する優品で、伝世品以外で完全な形での出土例は貴重である。一般の集落では持ちえないこの一級品を埋納して設置した井戸もまた、平城宮以外ではほとんど類例を見ない堅牢で精美な構造を持っている。