144 熊谷守一(1880−1977) 鬼百合に揚羽蝶 1959年
岐阜県生まれ。東京美術学校卒業。1908年第2回文展に初入選。その後二科展に出品。40年の第27回二科展では生誕六十周年を記念し四十数点が回顧陳列。戦後は二科会再建には加わらず、第二紀会、清光会に一時参加した他、日本国際美術展などに出品。晩年はほぼ自邸にこもっての制作に没頭した。
初期には暗鬱な色彩の作品を描いた熊谷であるが、息子の死を描いた《陽の死んだ日》(1928年)などの表現主義的な時期を経て、39年頃から、代表作《ヤキバノカエリ》(47年)のような、くっきりとした輪郭線を残しつつ色面を強調した「熊谷様式」を確立していく。《鬼百合に揚羽蝶》でも、簡潔な線描で形態を囲み、その内部はそれぞれ一色の絵具で平塗りされている。常に身近で具体的な事物をモチーフにした熊谷だが、その抽象化された簡潔な形態把握、あるいは複数の色面間の関係性への深い考察といった、モダニズム絵画の本質に接続され得る特質を有した絵画空間は、驚くべき質の高さと豊かさを獲得している。