杜若図
概要
画面上部の「舞子の奥なる多聞寺の 心の池のかきつばた ひとつひとつのむらさきも 心の文字に開きけり」の歌意に沿うように、画面下部にはS字状にくねらせた曲橋の周囲に「心」の花が咲いた杜若が描かれる。歌に詠まれる多聞寺(神戸市垂水区多聞台)は、貞観2年 (860)頃、清和天皇の勅命で、天台宗の僧・慈覚大師円仁(794~864)が開いたとされる。池長在世時に刊行された杉本久友編集『日本の楽園一名明石名所』(明輝社、1894年)には、「多聞寺」の項目に「門前心の池とて心字形の池あり、池中多く燕子花を植ゆ」とあるように、当時、神戸の観光名所の一つとして知られていたことがうかがえる。この池長の歌は、一部の表記が異なるものの、池水瑠璃之助(池長のペンネーム)著『紅塵秘抄』(東京堂、1921年)に「かきつばた」として収載されている。本作品には署名がないが、丸みのある形態や撥ね、払いが流れる書き癖などからも、池長による筆といって相違ない。なお、軸木裏に「池長孟杜若」と墨書が認められるが、池長ではなく別人による筆と考えられる。池長家の菩提寺である福嚴寺(神戸市兵庫区門口町)に伝わったもので、令和6年(2024)に神戸市立博物館のコレクションに加わった。
【南蛮美術】
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