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牛
Oxen
1936年
油彩・麻布 192.0×260.0㎝
福沢一郎が1930年代の前半に描いた一連の作品は、シュルレアリスムのデペイズマン(事物を日常の意味連関から切り離し、他の意味連関中へと転移する方法)を主な手法とし、作者も認めるようにキリコやエルンストの影響下に描かれたものである。が、そこでデペイゼされるのがもっぱら人間の身振りや動作である点は、後年の叙事詩的群像の画家としての彼を思わせる特質である。図面に登場する人物たちは、まったくナンセンスな行為に、何か身体をはっている風である。一一シュルレアリスムの「解剖台のうえのミシンと蝙蝠(こうもり)傘の出合い」の美学が、霊感の問題としてではなく、人と人、人と物の出会いの問題としてとらえられる萌芽がここにある。それらがより遠大な時空の中で遠く眺められた時に、戦後の福沢の神話的世界は開かれるであろう。
この作品《牛》は、前年に清水登之(とし)らと満州を旅して以来の、福沢の変化を告げている。以前の作品がその通俗性、卑近性において日常的論理全般に対する爆弾としての威力を発揮したとするなら、ここでは大陸風の広漠とした空と大地があらかじめ虚構の舞台として設定されている。人間の行為は悲劇として後景に退き、その不条理な盲目のエネルギーが、2頭の牡牛のかたちをとって前景に進み出てきている。2・26事件が起こり、日中戦争前夜にあたる年の作品である。