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飛火野
Deer in Tobihino
1965年
紙本彩色・額 170.0×145.0cm
奈良の春日野に二頭の鹿が浮かんでいる幻想的な光景である。森か草原を想わせるが茫洋として深い緑を背景に、平面的に切り取られたような鹿が二頭、わずかに姿勢を違えて、呼応して跳んで走る。二頭の鹿の眼には驚きが宿っている。華楊は以前、奈良で映画の撮影現場に居合わせ、その際一頭の鹿がライトを割り、その音に鸞いた数十頭の鹿が跳びはねて逃げるのを目撃した。この作品はその時の印象をもとに描かれたという。
華楊の画面空間は、初期の遠近感のあるものから、《洋犬図》(1937年、第1回文展出品、東京国立近代美術館蔵)のように具体的な空間を描かずにその茫洋とした広がりを暗示して現出させるもの、さらに《黒豹》(1954年、第10回日展出品)のように均一な平面へと変わったが、この作品ではそれが巧みに幻想的で装飾的なものとして結実している。鹿の形態を満たす金箔の輝きが緑の背景から浮かび上がり、動きのなかにも気品ある静けさを画面にたたえている。もともと写実に優れた華楊は、花鳥画の画面のなかで、対象のフォルムを巧みに響き合わせてきたが、ここでは背景の空間と対象の形態を平面性の限界にまで近付け、二頭の鹿のフォルム、さらに緑の背景と鹿の金地という、二重の響き合いを見せている。第8回新日展に出品され、文化庁買上げとなった作品。